第98回日本医療機器学会大会レポート
パネルディスカッション6
ヒューマンエラー対策を考える
こちらのセッションでは医療機器のみならず4つの演題が有りました。
- 手術室におけるヒューマンエラーとその対策
- 医療機器安全管理におけるヒューマンエラーとその対策
- 滅菌供給部門におけるヒューマンエラーとその対策
- 医療機器管理システムの導入で防げるヒューマンエラー
どの演題も実際に起こった事例を元に対策方法が発表されておりましたが、最後のディスカッションでは以下の内容に関してまとめられていました。
- インシデントレポートが「ごめんなさいレポート」(始末書の様になっている)になっている。誤るのではなく前向きな対策を入れたい。
- コミュニケーションスキルに関して
- 自分の思っていることは相手も当然分かっているという思い込みは子供の発想、他人は違う事を思っていると思って対応するべき。
- 医師のいう事が全てになっている。これに対する対策はかなり難しい。対策として
- 所属長同士の話し合いで決めるべき(OR看護師)
- 医師に対して積極的にコミュニケーションを取るしかない。(臨床工学技士)
- 相互理解が必要(中材看護師)
- 医師に全責任を持たせればよい。(医師)
医療機器安全管理におけるヒューマンエラーとその対策の詳細
演者はみゆき会病院の臨床工学技士(業務課の所属 1名)183床(一般95床、療養88床、内42床が回復期、OR3室、機能評価認定施設)
- 医療機器に必要な知識の習得の現況
・年1回 全職員対象医療機器研修会
・年1回 卒1Ns対象 人工呼吸器・輸液・シリンジポンプ
・年2回 人工呼吸器 研修会
・各機器に簡易マニュアルや標準作業書を作成・設置
2,医療事故報告
薬剤7.9% 輸血0.2% 治療・処置33.8% 医療機器等2.9% ドレーン・チューブ7.6%
検査5.3% 療養上の世話30.4% その他11.9%
- PMDA医療機器安全対策使用検討報告
・医療機器安全使用に関して製造販売業者による対策が必要又は可能と考えられた事例 0.00%
・製造販売業者により既に対策がとられているもの、もしくは対策を既に検討中の事例 2.81%
・ヒューマンエラーやヒューマンファクターに起因すると考えられた事例 63.13%
・情報不足の為製造販売評者による対策が困難と考えられた事例 34.06%
⇒医療機器そのものの不具合は非常に少なくヒューマンエラーが最も多い
- 医療機器に関連した医療事故報告
最も多かったもの(全体の75%弱)
・輸液ポンプ:入力間違い
・シリンジポンプ:麻薬単位間違い
・電気メス:熱傷・刃先欠落
・ペースメーカー:心室リード脱落他
・セントラルモニター:チャンネル未登録送信機の使用、患者間違い
・送信機:心電図リード線装着忘れ
・他カテーテル、インプラント関連等
次いで多かったのは人工呼吸器関連(18%位)
みゆき病院では以下の実例と対策が発表されていました。
人工呼吸器スタンバイ解除忘れ・テストバッグ取外し忘れ・コンセント入れ忘れ
背景:人手不足(夜勤明けスタッフも手伝い)
人工呼吸器の正常(運転・待機)状態をよく知らなかった
経験年数の近いスタッフ同士でダブルチェックしていた
疑問が有っても近くに主任やリーダーが不在で聞けなかった
人工呼吸器対応後、他院からの即入患者対応が控えていた
アラームが鳴っていなかったから異常なしと勘違いしてしまった
患者の観察(胸郭の動き、呼吸音等)をしなかった。
※ただこれが正しいと判断して今まで行動していた
ヒューマンエラーに関する誤解
・注意力によって防げる
・教育・訓練・動機づけによって防げる
・人による確認・チェックで防げる
※ヒューマンエラーは結果であり、原因ではないという理解が必要
エラープルーフ化(エラー回避の対策を人に依存せず、ミスを発生させない、発生しても大きな問題とならない仕組みや手順を設計する手法)
- 第1グループ(発生防止):エラーが起こらないようにする
- 排除:エラーを起こしやすい作業や注意を不要にする
- 代替化:エラーしやすいものを機械等信頼できるものに置き換える(自動化・支援システム等)
- 容易化:人間が作業の中で果たしている記憶・知覚・判断・動作等の機能を確実行えるよう作業を人間にとって容易なものにする。(ME機器中央管理システム等)
- 異常検出:人的エラーに起因する異常を速やかに検出して、必要な是正措置が取られるようにする(病棟ラウンド等によるダブルチェック)
- 影響緩和:機能に冗長性や制限、保護を設けることでエラーによる問題が他の個所に影響して広がらないようにする(人工呼吸器の緊急停止対策として手動換気装置を傍らに備えておく)
みゆき病院臨床工学技士によるヒューマンエラー対策
・病棟ラウンドによるコミュニケーションの充実とダブルチェック
・簡易マニュアルや解説を各部署にてダウンロードできるようにする。
・ME機器の新規購入検討にはデモ機による検討も行う。
・スタッフからの要望により少人数での勉強会をできるだけ随時開催する。
・過去のヒューマンエラー事象も考慮する。
・臨床工学技士業務の充実(研修、保守管理、使用中点検等)
・スタッフのエラーに対する理解を深める(エラープルーフ等)
・シミュレーションを加味した研修の実施
概ねこんなところです。みゆき病院の臨書工学技士さんは一番充実した発表で私自身改めて勉強になったことが多々ありましたので取上げさせて頂きました。
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