医療事故報告のデータ分析に基づく医療機器のリスク評価
背景・目的
医療事故情報の報告を介したリスクマネジメントは、顕在化された問題のみならず、潜在的な問題も含め安全管理体制を検証するために有用で貴重な情報源といえる。その一方で当施設における医療機器に係るインシデント・アクシデント報告は減少傾向を辿り、その報告システムが十分に活用されているとは言い難い状況である。本研究の目的はデータ分析に基づく医療機器のリスク評価を行い、医療機器に関連した医療事故報告の重要性について検討した。
方法
当施設におけるインシデント・アクシデント報告(2016-21年)のデータ整理・分析から、医療機器に係る医療事故報告の傾向を検証した。また、全ての事例に対して概要での分類上「医療機器等」には分類されていないが、その背景に医療機器の操作や設定ミス、故障等の関与が考えられる事例を発生要因から分析した。
結果
提出された2,489件の報告書の内「医療機器等」の事例は34件の1.4%に過ぎなかったが詳細に発生要因の特定を調査した結果、医療機器の関与が考えられる事例(「医療機器等」の事例を含む)は328件の13.2%を占めた。その内訳は事故の概要での分類上「療養上の世話」に含まれる事例が144件と最も多く、次いで「薬剤」に含まれる事例が91件と続いた。患者への影響度分類では、大半がレベル1であったが、影響レベル3aが19件、影響レベル3bが5件といったアクシデントが有った。
考察
医療事故の背景には潜在的に医療機器が多く関与していることから、我々の意識や病院運営のしくみを変革し、医療事故を報告する文化の醸成の推進を図り、医療機器に係る安全システムの構築へと展開することが重要であると考える。今後さらに医療機器に係る医療事故情報の報告を介したデータ分析により、安全性のシステム改善に繋がる新しい価値を生み出し、安全で高質な医療を提供することが必要不可欠であろう。(第98回日本医療機器学会大会 予稿集 医療機器学4より引用)
インシデント・アクシデント報告は大半が看護師さんから発出されることが多いと思いますが、報告分類が医療機器が係っていても医療機器等の分類で報告されることが少ないという報告は日本医療安全学会でもありました。
これは、見る人が見れば医療機器に纏わる医療事故は実はもっと多く存在し、報告者の意識では医療機器の存在が問題視されていないのではないかと推測されます。
実際臨床現場を巡回点検しているとインシデントの種を発見することは少なくなく、この種を減らすために気づいた時点で看護師さんに報告しています。
この地道な活動を続けていくとインシデント・アクシデントの種が徐々に減少していくことも事実です。医療機器管理・保守点検の実施というのは医療安全に直結する活動ですが、未だ意識の面では医療機器の専門家、看護師、事務方で大きな温度差が存在することも事実です。
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